暗いant

2003年12月1日 メモ
 もうずっと、彼女の事を考え続けている。忘れてしまえば、思い出した時の痛みに耐えられないから。

 僕はこの夕焼けを二度と忘れないだろう。たった今を境に、彼女を好きだった僕は死ぬのだ。
 あの頃、僕は彼女を愛していたけど、彼女の愛を信じてはいなかった。手に届く何もかもがどれほど騒いでも彼女しか見えていなかったのに。

 僕が死んでも、この想いだけは腐るまで置いておこう。彼女を傷付ける体は残らないのだから、許して欲しい。

 無味乾燥な真実と荒唐無稽な幻想と、どちらを選ぶべきなんだろう? 一体、この苦慮が無駄じゃないなんて事があるのだろうか。

 壊れてしまったのか、壊してしまったのか。
 君が壊してしまう前に、僕が壊してしまう前に?

 絶望的に甘美な敗北感が僕を襲う。圧倒的な安堵でもって、僕は悟った。彼女が、僕を殺すただ一人の人だと。

 近頃では夜更け、息も出来ない発作がやってくる。湧き上がる焦燥感にも似た衝動が、内側から僕を溺れさせる。想像した事もない不快感と揺り返すような痛みが、全身を巡り、引いていった。そんな時はこの胸を溢れた物が乾くのをじっと待つ。
 大丈夫だ。まだ平気だ。息ができる。生きてゆける。
 くり返しくり返す、言葉。

 薬の副作用で常に嘔吐感が消えない。吐いても出てくるのは胃液と剥がれた粘膜だけなので、我慢している。時折暴れるように胃が痙攣する。そんな発作をやり過ごすのにも慣れてしまった。

 一人でいるのも、二人でいるのも等しく辛い。一目会いたいと願い、二度と見たくないと祈る。それならば彼女を傷付ける前に離れてしまうのが得策だった。

 彼女がいなくても生きていける。不思議な事だけれど、本当だった。
 時折、無性に寂しくて死にたくなる時間がやってくる。その都度とてもやり過ごせないと想うのに、存外に呼吸をし続けている。
 生きているとは言えないかも知れない。ただ死んでいないだけだから。

 望まれるように在りたいと願う。望まれないのならば、それは不要だと言う事だ。

 季節が変わるような緩やかさで、その意味は変わっていった。

 君のいた夏が、君のいない冬を越える僕の光。

 その瞬間を待ちわびて久しい。

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