傲慢な男達

2003年11月20日 メモ
「オレ、やった事ある。羨ましいか?」
 勁い目は今は伏せられて、常にない翳りを帯びている。
「何を」
「セックス。あいつと」
 彼は束の間、沈黙する。
「羨ましいな。どうやって口説いたの」
「別に。お前がフラレタ日に俺の所に来て。向こうから誘ってきたんだ、一度だけだ」
「羨ましいよ」
 いつも穏やかな双眸は宙を食むかのようである。対する男は密やかに息を呑む。
「僕が彼女を見てたんだ。彼女が僕を見てたんじゃない。そうだとしても、僕に見覚えがあったとか、こっちの視線が気になったとか、そう言う事だよ」
 それは確かな事である。
「君に何を言われても、形見なんて受け取れない。彼氏の君が貰えばいいじゃないか」
「ウチは寺なんだよ」
 どさりとテーブルの上に、分厚い聖書が放られる。 
「血がついてて悪いけど」
「……彼女の?」
「いや」
 赤黒いマーブル模様は革表紙に染み込んで、たとい拭っても消えないであろう。
「俺の」
 目に付いた道具を使う、彼女に一番近い方法がそれだったと言うだけである。
「自分で切ったんだ。あいつが死んだ日」
 ライターを繰る男の手首にはなるほど、白いテープ状の物が張り付いている。
「お前、本当は何しに来た」
 二人の視線が今日初めて、徹る。
「僕はね。形見なんて、実用的な物以外、本人から貰う他は意味がないと思ってる」
 彼は愛おしそうに表紙を撫でる。
「僕はずっと彼女を見てたけど、僕を見てくれなかった彼女から貰えるものは何もないんだ」
 カリカリと爪の先で、血痕を削る。
「元々何かに執着するような子じゃなかっただろう。なんでそんなに渡したがるのさ」
「知るか。俺は選ばれただけだ」
 他でもない彼女に、伝達者たる事のみを望まれたのである。
「お前こそ、何をそんなに頑なになってるんだ」
 男の指先から、さりさりと灰が落ちる。紅い火の粉を乗せて散る。
「彼女はここにいない。僕は彼女をずっと見ていた。それだけの事だよ」
「お前が何をそんなに怒ってるのか分からないな。俺があいつを抱いたのなんて、一回きりだぞ」
 彼はきょとりと、目を開く。
「僕が怒ってるのは分かるんだ」
 彼は笑う。彼女に見せたようでもなく、誰に見せたようでもなく。
「その一回が、殺したい程羨ましいって事だよ」
 
 
くそっ一度完成間際までいったのに(怨)つーか、死んでんのかよ!
レズが出てきたのでホモっぽくしようかと思ってたんですが、なんだか彼等は殺し合いそうですハハ。つーか殺されちゃうの?

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