「飲み会出たの? なんで僕も呼んでくれないかなぁ」
「必要ないでしょ」
それって…と彼が気色ばむので、もちろん「貴方と呑みたくないから」と駄目押しておいた。
「なんだ。僕は、てっきり……」
「どうせ夜に会うでしょ、とか言うと思った?」
「いや。今日は約束してなかったし。……わざわざ逢わなくてもいい関係になれたかと」
私が貴方の事を好きになったとでも?
「諦めない?」
「諦めない」
にこりと笑う。
「そのわりに、夜中部屋に入れても何もしようとしないじゃない」
彼はいっそう笑みを深くした。不敵にも見えるアルカイック・スマイル。
「君は僕が手を出しても平気だよ。抵抗もしないし、罵倒もしない。拒んだり受け入れたりするよりも、流す方が楽だと思ってる。努力や犠牲を重ねるよりも、耐える方が楽だと思ってる。そうして僕が先走って、さっさと離れていけばいいと思ってる。君は卑怯だ。君は可哀相だ」
……そりゃどうも。
「まともに相手されないほど嫌われてる、とかは考えないわけ?」
「それなら、いいんだ」
先程までとは違う笑みが浮かんだ。いつからかそれは、誰にでも見せる表情ではないと、気付いている。気付かされた。
「捨てるのも忘れるのも、そこに何か在ってこそだからね」
「あなたって本当に、私の事が好きなの?」
「確かめてみる?」
そこに何もない事を?
『初めて君を見た日を、まだ覚えている』
「帰って。私は食堂のおばちゃんじゃないし。これからレポート書きたいの」
不自然だったろう。彼が夕食を食べてきてるのは分かってる。
「君がどんなに醜く落魄れても、僕は側にいる自信がある」
馬鹿じゃないの、あなた。
「そんなの自己満足じゃない」
彼は笑ったようだった。背を向けてるから分からない。だからその時、彼が本当はどんな表情をしていたのかを、私は知らなかった。
「そうかもね。言葉って陳腐だ」
何もかも全てを共有し、心も体も環境も同一化を計るのが恋である。とは、思わない。
過去も今も未来も、全て。
重い音がして、ドアが閉まった。
外の光が一瞬差し込んで、部屋の中はまた暗く沈む。
「必要ないでしょ」
それって…と彼が気色ばむので、もちろん「貴方と呑みたくないから」と駄目押しておいた。
「なんだ。僕は、てっきり……」
「どうせ夜に会うでしょ、とか言うと思った?」
「いや。今日は約束してなかったし。……わざわざ逢わなくてもいい関係になれたかと」
私が貴方の事を好きになったとでも?
「諦めない?」
「諦めない」
にこりと笑う。
「そのわりに、夜中部屋に入れても何もしようとしないじゃない」
彼はいっそう笑みを深くした。不敵にも見えるアルカイック・スマイル。
「君は僕が手を出しても平気だよ。抵抗もしないし、罵倒もしない。拒んだり受け入れたりするよりも、流す方が楽だと思ってる。努力や犠牲を重ねるよりも、耐える方が楽だと思ってる。そうして僕が先走って、さっさと離れていけばいいと思ってる。君は卑怯だ。君は可哀相だ」
……そりゃどうも。
「まともに相手されないほど嫌われてる、とかは考えないわけ?」
「それなら、いいんだ」
先程までとは違う笑みが浮かんだ。いつからかそれは、誰にでも見せる表情ではないと、気付いている。気付かされた。
「捨てるのも忘れるのも、そこに何か在ってこそだからね」
「あなたって本当に、私の事が好きなの?」
「確かめてみる?」
そこに何もない事を?
『初めて君を見た日を、まだ覚えている』
「帰って。私は食堂のおばちゃんじゃないし。これからレポート書きたいの」
不自然だったろう。彼が夕食を食べてきてるのは分かってる。
「君がどんなに醜く落魄れても、僕は側にいる自信がある」
馬鹿じゃないの、あなた。
「そんなの自己満足じゃない」
彼は笑ったようだった。背を向けてるから分からない。だからその時、彼が本当はどんな表情をしていたのかを、私は知らなかった。
「そうかもね。言葉って陳腐だ」
何もかも全てを共有し、心も体も環境も同一化を計るのが恋である。とは、思わない。
過去も今も未来も、全て。
重い音がして、ドアが閉まった。
外の光が一瞬差し込んで、部屋の中はまた暗く沈む。
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