彼女とは一般に友人と呼ばれる関係であったと思います。
 なんて傲慢な女だと思いました。
 魂に殺人罪が適用されるなら、きっと彼女は死刑です。
 
 
「相変わらず不細工なツラしてるわね」
「そっちは相変わらずカワイイ顔してるね」
「当然」
 私は当時から己の外側を磨く事に余念がなかったのでそういわれる事はけして少なくなかったのです。私の容貌は大層金と時間のかかった物でありましたから、彼女と同列の扱いを受ける事は我慢なりませんでした。彼女の方もそれを分かってくれていたようで、常に私の長所と思われる部分を褒めます。異性からもらうそれとは違う、聞きなれた単語の驚くほどすべすべとした響きが、私はとてもとても気に入っていました。
 ちろりと、何気ない仕草で彼女の目が私から逸らされます。その先にあるものを、私は知っています。
「あんたみたいなの、誰にも相手されないわよ」
「はあ?」
「さっき通ったの、経済の子でしょ。好きなんでしょ?」
 言いながら私はおよそ許せぬ事だと怒りを燃え立たせていました。
「ああ…彼ね……」
 否定される事を願っておりました。
「好きなのかなあと思って、ずっと見てたんだけど。……ずっと見てたら、分んなくなっちゃった」
 白状いたしますと私は、彼女の言葉に大変安心したのです。
「私が話してあげようか?」
 そんな言葉も飛び出します。
「いいよ。そこまでする程の事じゃないし」
「合コンやろうか?」
「いいよ。好きでもない人間の為にそこまでやる事ないし」
 熾き火に風が送られたようでありました。私の腹の底は今や煉獄のよう。込められたダブル・ミーニングに私が気付かないと思う程度には、侮られていると感じました。
 けれど失いたくないと思うのなら、この炎を押さえ込む他ありません。私はこう言うのがせいぜいでした。
「あっそう。じゃあね」
 彼女はこう言いました。
「さようなら」

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