行くのはおよし、と声がかかった。
「あれは獣だ。人の慰めなどいらぬ」
 突き放すような言葉に、向き直った。柱の影から男が姿を現す。
「彼には今、側にいる人が必要なんだよ」
「獣は傷を受ければ、一人で身を潜めて癒す。お前と傷を舐めあう事など、あれは求めておらんよ」
「それでも! 私が、側に、いたいんだ」
 男が目を眇める。揶揄するような、見極めようとするような目つき。
「で、あれば良かろうよ」
 ふらりと、何の興味もなさげに立ち去った。

「許しているとでも御思いで?」
 ずるりと剣がめり込んだ。
「お前は、だって、何も言わなかったじゃないの!」
 喘ぐ内にも刃は深く沈んでゆく。
「あなたこそ何も聞かなかったではないか。知っているはずだ、とばかり」
 絨毯にくずおれた体ごと、彼は短剣を手放した。

コメント