非道い男

2003年9月14日 メモ
 あァ。
 なぜ私はこの男の側にいるのだろう。
 こんなにも傷付いているくせに。
 愛されてなどいないくせに。
 あァ、けれど、これは報いだ。それが報いだ。
 私は彼を殺すのだから。
  
 ただ一緒にいるだけで、私は彼を苛立たせるらしい。私といる時の彼は常に怒っている。
 私の態度が悪いのだと言う。
 けれど私には、自分の何が悪いのかが分からないのだ。
 それがまた彼の怒りを買う。
 私は彼に憎まれたくない。
 だから聞く。
 私のどこを治せば、側にいてくれるかを。
「お前の顔見てると、イライラしてくんだよ!」
 顔が悪かったらしい。
 私は貯金を下ろし、整形した。彼の好みに。彼を不愉快にさせないように。
 彼と一緒にいられるように。
「ブスは整形してもブスだな」
 八十万円をつぎ込んでも、何も変わらなかった。

「お前といるとホント会話がはずまねえよなぁ」
 喫茶店で不機嫌そうに彼が言った。
「あのさあ。今俺といて楽しい?」
 雨が降っていた。通りの外にも店の中にも、私達と同じ二人連れがたくさんいる。
「……私は……喋るのが得意じゃないし……あなたの、好きな事とか話せないけど……」
「だから! 俺といて楽しいのかって聞いてんじゃん。あーあーそこがもう違うよな!」
「ごめんなさい」
 私の何が彼の気に触ったのか分からないけれど、彼を不愉快にさせたのは分かったので謝った。
「お前って本当につまんねえよな。ブス」
 まるで私を憎んでいるように言い放つと、彼は席を立つ。
 私はレシートを掴み、早足でレジへ向かった。私が店を出るまで、彼は待っていてくれない。急いで精算しなければ。
 雨音に交じって、「傘買って来いよ」という声が聞こえた。

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